炎上

「1枚の社員の集合写真」がSNS投稿で大炎上…何が問題か、あなたは気づけますか?

岩田いく実: ライター
経営・戦略News&Analysis
2026年8月10日 6:00

画像は実際の写真をもとにAIで作成しています

ある企業の広報担当者が、20代若手社員の集合研修の様子をPRするためにSNSに投稿した1枚の写真が、思わぬ形で「炎上」しました。一般的にSNSの炎上では、アルバイトによる厨房内のいたずらなど不適切な言動がきっかけになりやすいですが、なぜこの1枚が炎上につながったのでしょうか。SNS炎上の理由と、知っておきたい企業や採用・広報担当者のリスクについて弁護士法人かける法律事務所の細井大輔弁護士に聞きました。(執筆/ライター 岩田いく実、監修/かける法律事務所 細井大輔弁護士)

※画像は実際の写真をもとにAIで作成しています

何気ない社員の集合写真なぜか突然の「炎上」

 写真に写っていたのは、中堅メーカー企業のA社に勤務するスーツ姿の男女5人でした。この写真は研修施設の前で撮影された1枚で、企業の活動をPRするために自社が運営するInstagramへ投稿。投稿後すぐに多くの「いいね」が押されており、企業広報として順調なスタートを切ったかに見えました。

 ところが投稿から2日後、状況が一変します。反発的な投稿が増え始め、やがて写真に写る個人を特定しようとする動きが加速したのです。

 その後、数日のうちに5人のうち複数人の実名、出身大学、SNSアカウント、さらには交際に関する未確認情報までもがネット上に拡散。ある女性が特に炎上し、「学生時代から素行が悪く、問題ばかり起こしていた」など事実と異なる憶測や、根も葉もない誹謗中傷も含まれていました。

 不適切な行為は一切撮影されていないのに、突然起きたSNSの炎上。いったい何が問題だったのでしょうか。

 この写真に寄せられた反発的な投稿とは、「あの会社は顔採用だ」「調子に乗ってそう、仕事ができなさそう」といったものでした。A社には「調子に乗っている」「過去に派手だった女性を採用するな」といった抗議が殺到し、コメント欄を封鎖。

 最終的に投稿は削除しましたが、一度拡散された個人情報は完全には消えず、写っていた社員の一部は精神的な負担から個人のSNSを削除する事態に発展しました。

 A社の広報担当者は当初、不適切な行動が拡散されたものではなかったため事態を静観していましたが、拡散のスピードに対応が追いつかず、投稿削除の判断が後手に回ったのです。

なぜ「若手社員の写真」が攻撃の対象になったのか

 不適切な行為は一切撮影されていないのに、突然起きたSNSの炎上――この事例は「妬み・嫉妬」から来る感情的な反応を招いたのです。写真に写っていた社員が「仲が良さそうな」「楽しそうな」20代社員だったことが、閲覧者の間に無意識の反感を生んだと考えられます。

 SNS上での炎上は、必ずしも「悪いことをした人」だけに向かうわけではありません。むしろ「恵まれているように見える人」「自分より優遇されているように見える人」に対しても、不公平感や嫉妬などの感情から攻撃が向けられるケースも少なくありません。

 さらに、集合写真に加えて社員証を付けたまま投稿するという「本人が特定できる形式」であったことも拡散を加速させました。匿名性の高いSNS上では、群衆心理が働きやすく、一人が特定作業を始めると、他の利用者も「正義感」や「祭り感覚」から便乗し、個人情報の暴露がエスカレートしやすいため注意が必要です。

投稿企業にも「二次被害」の法的責任が生じ得る

 今回のように不適切行為が見られない場合でも企業のSNSが炎上してしまった場合には、いったいどのような対応が必要となるでしょうか。そこで、SNSのトラブルや企業法務に精通する弁護士法人かける法律事務所の細井大輔弁護士に聞きました。

◆◆◆

――この事例では、投稿によって社員が精神的に疲労してしまう事態に発展しました。投稿をした企業側に責任は生じるのでしょうか。

細井弁護士:まず、押さえておきたいのは、写真に写った社員本人の「肖像権」や「プライバシー」に関する問題です。

 企業が広報目的で社員の写真を撮影・公開する場合、本人の同意を得ていたとしても、それは「研修風景をPRする」という当初の目的の範囲内での同意であり、その後の炎上によって実名や出身大学、交際関係などの私生活上の情報まで拡散されることについてまで、通常は想定・同意していたとはいえません。

 また、SNS投稿は企業の判断により行われるものである以上、投稿をきっかけとして従業員が誹謗中傷や個人の特定などの被害を受けた場合には、企業として適切な対応や被害拡大防止措置を講じることが重要です。

 対応が後手に回ると、従業員が深刻な精神的負担を受け、休職や退職に至るおそれがあります。さらに、そのような事態を招いた経緯や企業の対応状況によっては、安全配慮義務違反などを理由として、企業の管理責任や損害賠償責任が問題となる可能性もあります。

悪意ある拡散に加担した人の責任を追及することは可能

――悪意のあるコメントや情報の拡散に加担した個人には、責任はないのでしょうか。

細井弁護士:悪意のあるコメントを書き込んだり、情報の拡散に加担した個人にも、当然、法的責任が生じる可能性があります。「自分はコメントしただけ」「リツイートやシェアをしただけ」という感覚でいる人は少なくありませんが、それぞれの行為に応じて責任が問われることがあります。

 例えば、「学生時代から素行が悪く、問題ばかり起こしていた」といった事実と異なる投稿をした場合には、名誉毀損罪(刑法230条)や侮辱罪(刑法231条)が成立する可能性があります。

 名誉毀損罪は、具体的な事実を摘示して他人の社会的評価を低下させた場合に成立します。たとえその内容が真実であっても、公共の利害に関わらない私人の私生活上の事実を公表した場合には、違法となることがあります。

 また、侮辱罪は、インターネット上の誹謗中傷が社会問題となったことを背景に、令和4年(2022年)の刑法改正により法定刑が引き上げられました。

 従来は「拘留または科料」のみでしたが、現在は「1年以下の拘禁刑若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料」とされています。処罰の対象となる行為自体に変更はありませんが、インターネット上の誹謗中傷に対して、より厳しく対処していくという国の姿勢が示されたといえます。

3 権利侵害が認められる場合には、速やかに法的対応を検討する
 本人を特定できる情報や誹謗中傷が拡散されている場合には、プラットフォームへの削除要請をはじめ、必要に応じて発信者情報開示請求などの法的対応を速やかに検討することが重要です。また、悪質な事案では、法的措置を講じる方針を公表することが、更なる誹謗中傷や情報拡散の抑止につながる場合もあります。

4 被害を受けた社員への支援を行う
 炎上の対象となった社員は、大きな精神的負担を受けることがあります。必要に応じて産業医との面談やカウンセリングを案内するなど、心理的なケアを含めた支援を行うことも企業の重要な役割です。

細井大輔(ほそい・だいすけ)/弁護士。2007年弁護士登録。日本で最も歴史のある渉外法律事務所・ブレークモア法律事務所にて企業法務を中心に取り組み、2016年に大阪・北浜にて「かける法律事務所」を設立(現在法人化)。企業法務・コンプライアンス・不祥事対応・知的財産・M&A・労務人事問題など幅広い分野を手がけ、企業の持続的成長を法務面から支援。コンプライアンス研修・ハラスメント予防研修の講師としての登壇実績も多数。

投稿前のリスクチェックの徹底と炎上時の初動対応の準備を

細井弁護士:企業は、「不適切な行動が写っていたわけではない」という理由で対応を後回しにしがちです。しかし、SNSの炎上は「何をしたか」だけでなく、「どのように受け止められたか」によって発生することも少なくありません。そのため、炎上の原因を問わず、まずは社員の安全や権利を守るという視点で迅速に対応することが重要です。

 好意的な意図で発信した情報が、思わぬ形で炎上につながることは、現代のSNS社会では決して珍しいことではありません。写真1枚から本人が特定され、深刻な誹謗中傷やプライバシー侵害につながるケースもあります。

 企業は、炎上してから対応するのではなく、SNS投稿基準や承認フローを整備し、投稿前のリスクチェックを徹底するとともに、炎上時の初動対応や法的対応をあらかじめ準備しておくことが重要です。

※プライバシー保護のため、登場人物に関する情報の一部を変更しています。

 

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